半世紀以上にわたり、アイルランドは大西洋に面した単なる島国以上の存在であり、欧州連合(EU)の献身的な加盟国として、より大きな存在の一部となりました。その間に、EUとのパートナーシップは互恵的な双方向の関係へと発展し、アイルランドは経済変革を実現し、最近ではEUの経済的成功と技術革新に貢献するまでになりました。現在、アイルランドからの輸出の3分の1以上がEU市場向けで、その見返りとしてEUからの輸入はアイルランドの輸入全体の5分の1以上を占めています。
EU加盟国であることは、アイルランドの対内直接投資誘致の成功に直結しています。EU加盟後数年間で経済を転換させたアイルランドは、域内技術革新のトップへと発展しました。その結果、アイルランドには情報通信技術、製薬、ライフサイエンス、クリーンテックなどの部門の世界的大手企業が進出しました。さらにアイルランドはユーロ圏内でも有数の英語圏の国であるという利点により、4億5千万人以上の消費者を抱える市場への貴重なアクセスを提供しています。
アイルランドは、欧州の人々を引き付けて暮らしと仕事の場を提供することに成功しました。アイルランドの多様な労働力の約1割がEU出身者です。Zendeskの創設者兼前CEOのMikkel Svane氏は、この傾向に着目し、そのメリットを最大限に活用しました。このデンマーク系アメリカ企業のソフトウェア企業は2012年にアイルランド事業を立ち上げ、わずか2人のエンジニアからスタートして、今ではEMEA(欧州、中東、アフリカ)の統括本部となっています。
「アイルランドは、多くの欧州人が働きたいと思う場所になりました。欧州各地から優秀な人材をダブリンに集めることができたのは本当に幸運でした」とSvane氏は語りました。また、多くの企業が、汎欧州またはEMEA地域統括と意思決定を行うグローバル上級職をアイルランドに配置しています。
近年、アイルランドは技術革新の主要戦略分野におけるEUの前進にいっそう貢献するようになりました。EUとアイルランド政府による共同投資は、国内の技術革新システムの活躍を促進しています。その好例が、Analog Devices社の6億3000万ユーロのプロジェクトFANFAREへの政府投資を欧州委員会が承認したことで、81億ユーロの公的資金により137億ユーロの民間投資開放が期待されています。
Analog Devices社は、マイクロエレクトロニクスおよび通信技術に関する欧州の新しいプロジェクトにアイルランドから参加します。このプロジェクトは、IPCEI(欧州共通利益に適合する重要プロジェクト)に指定されています。アイルランドは、IPCEI ME/CT(欧州共通利益に適合するマイクロエレクトロニクスと通信技術に関する重要プロジェクト)に参加する14加盟国の1つで、他にも5ヵ国とノルウェーが参加しています。このイニシアティブには、56社68プロジェクトが関わっています。
アイルランドは、特に製薬、医療機器、金融サービスなど規制産業の企業に欧州規制システムへのアクセスを提供しており、製薬と医療機器では、HPRA(保健製品規制局)を通じて、また欧州市民のデータプライバシーに関してはDPC(データ保護機関)を通じて提供しています。
大規模な洋上風力発電という国の壮大な計画により、アイルランドは将来にわたってクリーンエネルギーを確保するだけでなく、ゆくゆくは相互接続されたグリーンな欧州グリッドで重要な役割を果たすことが見込まれます。これも、持続可能性に関するEU戦略目標と一致しています。
元欧州委員会委員でイタリア首相のMario Draghi氏による欧州の競争力に関する報告書と、その中に書かれるEUが直面する課題に対処するための新たな産業戦略提案は、歓迎すべきものです。この提案は、技術革新を活用して生産性を向上させ、脱炭素化の産業機会を捉え、エネルギー競争力を高めることを目的としています。この重点分野は、アイルランド政府産業開発庁のクライアント企業、すなわち、アイルランドですでに事業を展開している1800の多国籍企業、さらには今後進出してくる企業のために同庁が掲げる目標の多くと一致しています。変革と革新、回復力と持続可能性の強化に役立つというものです。
アイルランドの成功は欧州の成功であり、それを実現するのは強固で永続的なパートナーシップです。アイルランドで事業を立ち上げる企業は決して孤立することはありません。