アイスホッケーには「自分が行く先は、パックが来るポイント」という名言がある。そして、AIブームというゲームにおいて、アイルランドは20年以上にわたり、機械学習と大規模言語モデルの進歩に向け淡々と土台固めをしながら、ブームの到来に向け準備を進めてきました。AI技術への需要が世界的に高まり、その瞬間が今まさに到来しました。

 

強力な人材パイプライン

アイルランドは当初、データ分析という名目で、20年以上前からAIに携わってきました。アイルランドの教育システムは、Skillnet Irelandの支援を受けて毎年約1500人のAI修士課程終了者を輩出しています。さらに、SFI(アイルランド科学財団)は4年間で600~700人の博士号取得者を育成しています。アイルランドは全国的な人工知能の大学院修士課程を展開した最初の国であり、国民一人当たりのEurAIフェロー数が最も高い国の一つです。アイルランドは、緊密な協力関係と大きな成長機会を併せ持つユニークな立場にあります。

多国籍企業とのコラボレーション

Microsoft、Meta、IBM、Alphabetなどの大手テクノロジー企業は、アイルランドのAI人材に 引き付けられてアイルランドの研究機関と共同研究をしています。OpenAIは2023年にダブリンで事業を開始すると発表し、CTO(最高戦略責任者)のJason Kwon氏はアイルランドの技術人材を高く評価しています。MicrosoftはアイルランドをAI分野のリーダーと捉え、海外からの投資と技術革新において国際舞台で果たす役割に注目しています。

Accenture、Siemens、Amazon Web Services、Salesforce、Intelをはじめ、各種分野の多国籍企業がアイルランドにAI関連の中核的研究拠点を設立してきました。これらの企業は、データ分析、クラウドコンピューティング、ビッグデータに関するアイルランドの専門知識を活用しています。

アイルランドの新興AI企業

アイルランドの機関や組織もデジタル革命にAIを活用しています。その例には、Health Service Executive、Marine Institute、Gaelic Athletic Associationなどが挙げられます。

大学からのスピンアウト企業も、AI技術革新の重要な源泉となっています。Digital Gait Labsは、コンピュータビジョンとモーションキャプチャの広範な研究に基づいて、バイオマーカーを使用した歩行分析を治療に役立てるアプリ、GaitKeeperを開発しました。Voysisは、Appleが2020年に買収後、SiriのAI機能を強化しました。Curriculum Associatesが買収したSoapbox Labsは、子供向けのAI音声技術を開発しました。また、アイルランドのユニコーン企業であるIntercom社は、GPT-4を活用したAIベースの顧客コミュニケーションツールを発表しました。

学術大国

アイルランドでは、大学部門を通じたAI人材の育成を戦略的に重視したことが功を奏しました。約25年前に始まったこの取り組みにより、優秀な人材へのアクセスがアイルランドへの企業投資の主な理由となっています。アイルランドで学んだ著名な研究者は現在、世界で要職に就き、CitiのPrag Sharma氏、ShutterstockのAlessandra Sala氏、IntercomのFergal Reid氏が挙げられます。

University of Limerickは最近、Lionel Briand教授を任命しました。Briand教授は、信頼されるソフトウェアとAIの研究で著名な学者であり、SFI(アイルランド科学財団)Research Centre for Software のLeroの所長も務めています。教授の専門知識はEUのAI 法と合致しているため、アイルランドをAIの倫理と保証の分野で主導的な立場に導くことになります。

信頼を中心に

アイルランドの国家AI戦略「AI - Here for Good」は、社会的信頼と社会的利益に焦点を当てています。Briand教授の信頼されるAIに関する研究はこの戦略に適合し、国民の信頼を確保するためにAIの安全性、セキュリティ、公平性の問題への取り組みを専門としています。また、Leroでの教授の研究は、AI対応システムの責任あるエンジニアリングが中心で、説明できる、信頼されるAI技術の必要性を強調しています。

世界は、これまで以上に強力な生成AIと大規模言語モデルに向けて競争しています。その中でアイルランドは、すべての人のために技術を活用する上で重要な役割を果たす可能性があります。